Day8 バンガー

今日も朝4時に鐘は鳴る。

いつもと変わらぬ8日目の朝。

4時半から眠さと現実の狭間で2時間を終える。

他の生徒たちが朝食へ向かう中、僕は一人朝シャワー。

寒いんだ、これが。

脱いだ衣服をその場で手洗い洗濯。

干し終わったら朝食へ。

ちょうど他の生徒たちが食べ終わった頃。

空いたトースターでライムギパンを焼く。

バターを載せて、うまいんだ、これが。

ゆっくり味わう間もなく、世話役の方たちが朝食を片付けにくる。

他の生徒より時間を後ろにずらしてる分、空いてるけど時間はぎギリギリだ。

 

晴天の気持ちのよい朝。

狭い庭へ散歩に出る。

すっかり土っぽくなった、初日に見かけた野生動物の糞。

ハッとした。

しまった!昨夜の指令、「すべての感覚に気づき続けろ!」を守れていなかった!

朝起きた時には全てスッキリ忘れていて、僕は何にも気づいていなかった。

食べることも、歩くことも。

あちゃーと思いながら歩く。

ええと、歩くときは足が地面を感じていて。

腕は前後に振られていて・・・。

 

 

あれ?

僕はふと止まった。

立ち止まったのだ!

それがどうしたって?

僕は、僕は「生まれて初めて自分の意志で立ち止まった」のだ。

いやいや、今までだって立ち止まってきたでしょ?

そうだ、そうなんだけど、それは決して自分の意志ではなかったのだ。

信号が赤だから、誰かに呼び止められたから、何かを思い出したから。

そう、それは反応。

何かに反応していただけだったのだ。

僕は30年以上生きてきて、一度も自分の意志で立ち止まったことはなかったのだ。

雷に打たれたような衝撃だった。

僕は今まで反応してきただけだった。

そして、今。

僕は生まれたのだ。

一瞬だけれども、初めて自分で自分をコントロールしたのだ。

 

この日の課題、記憶に自信がない。

「貫通」ではなかったかな?

今まではどちらかというと体の表面の感覚を感じろ、という課題。

それが、体の内部を前から後ろへ貫通しながら感覚を感じて、さらに後ろから前へバック。

それを体の全箇所やりなさい、というもの。

それをこなしているうち、えっ、ここで?というタイミングで新たな課題が出たんだっけか?

この辺、記憶があやふや。

なんせ、メモが取れない。

その課題、体全体を同時に感じなさい、というものだったと思う。

そして、修行をこなすうちに、「バンガー」という完全溶解状態になるんだって解説があった。

「貫通」の課題がまだこなしきれていなかった僕。

いいや、貫通が終わってからやろう、とマイペースを貫く。

貫通の課題がひと段落して、ヨシ、と身構える。

まずは頭部から。

このころにはだいぶスムーズに皮膚の脈動を感じられるようになっていた。

顔、頭部、首。

感覚を感じる範囲を広げていったとき、それは起こった。

 

ブチッ!!!

 

トロン・・・

 

???何が起こったのかわからない。

さっきまで感じていた脈動が全く感じられず、体の中が静かだ。

そして、体の中が、なんというか一つのボトルの中になったような、そのボトルにトロンと液体が満たされているような、そんな不思議な感覚。

でも、悪い感じはしない、どちらかというと心地いい。

溶けている、そんな感覚。

そうか、これがバンガーか!?

そうなんだと思うんだけど、合っているのか確かめようがない。

そのうち、バンガー状態で体全体の血流?のようなものを感じるようになった。

ビューッ、ビューッ、って、脈に合わせて、体の外周をエネルギーの流れが循環しているような感覚。

研ぎ澄まされていくような感覚。

8日目、一つの区切りへ達したんだと思う。