意識に気づいた。
反射的に枕元の腕時計の針を見る。
4時20分。
マズイ、あと10分で瞑想が始まる!!
文字通り、飛び起きて服を身にまとう。
廊下へ出て迷う。
すぐにホールへ行くか、トイレへ行くか。
ホールへ行きかけ、思い留まる。
トイレだ!!
開始4時半にはギリギリ間に合ったものの、悪く言えば間に合っただけというか。
あまりの眠さに朦朧としながら、気づく感覚といえば背中の痛みと足の痛み。
あれ?僕はなんのために目を瞑って座っているんだっけ?
そうやって時々思い出しては今日のテーマである鼻の下の感覚に思いを馳せる。
呼吸以外の感覚とは?
何を感じるのが正解なんだろう?
ついつい「正解」を探してしまうのは、学校教育の賜物。
しかしわからない。
マスクの中で繰り返される空気の流れ。
たしか解説で「温度の違い」「湿度の違い」とか言ってかなったっけ?
吸うときは空気の温度が低くて、吐く時はあったまった湿度の高い空気が出てくる。
それが呼吸以外の感覚でいいのかな?
でも、それってどっちも呼吸由来だから、呼吸以外の感覚を感じろってのとは反してるんじゃないの?
解釈として引っかかるものはあったけど、人間とは物事を自分に都合よく捉えるもの。
これでいいや、と無理やり自分を納得させて足の痛みと戦う。
3日目であろうが早朝の2時間瞑想は抜群に辛い。
なかなか鳴らない鐘を待ち焦がれるだけの後半1時間がなんとか終わった。
9時からの瞑想、4人ずつくらいの単位で皆が順番に呼ばれて先生の前に座る。
先生から「どうですか?呼吸以外の感覚はありますか?」と尋ねられている。
皆の答えはなんか今ひとつ僕のイメージと違う気がした。
やべえ、なんて答えよう、イマイチ自信がない・・・。
あっと言う間に僕の番はきた。
温度と湿った感じがすると答えた僕に対して、先生はその場所を尋ねた。
右手の人差し指で鼻を指すと、先生から「それは呼吸です」とバッサリ斬られる。
次の次、サーファーのにいちゃんは「足が痛くて・・・」と正直に答えていた。
僕は無意識の内にいいカッコしようとして答えていた自分に赤面した。
なんて恥ずかしい。
呼吸以外の感覚がわからない、感じないって、正直に答えれば良かったのだ。
自席へ戻ってから呼吸以外の感覚を探す。
見つからない。
呼吸以外何も感じない。
でも、この感覚じゃないってことだけはハッキリした。
今日はある決意というか、試みがあった。
座り方を研究する。
というか、せざるを得ない。
無駄に強がってサーファーのにいちゃんみたいに言ってないが、足が痛すぎるのだ。
足が痛すぎて瞑想どころではないのである。
隣に座る、相部屋の若い男子。
25歳くらいだろうか?
この人は完全に素人ではない。
たぶん、普段から座禅か何かをやっているんだと思うんだけど、なんだか本格的な足の組み方をしてる。
両足の先端まで、なんていうかこう、内側にめり込んでいるというか。
左右対象ですごくキレイ。
言葉では伝えきれないので、ダルシム、あぐらで画像検索してください。
便利な時代で、あぐらのイメージは伝わると思います。
これだ、これをやってみよう!ダルシム式あぐら!
見様見真似、かつそもそも常時目を瞑っているからそんなに見れないのだが、回の終わった瞬間にチラ見したりして、真似してみた。
これがね、意外と激ムズイ。
両方の足が対象に入り組む感じになんとか腕の力でめり込ませていくんだけど、10回トライして1回ビシッと入るかどうか。
セッションの開始前、一人自分の両足と格闘した末、なんとか見た目同じような形になった。
ヨシ、これでどうじゃ!?
そうやって臨んだ9時からの瞑想。
出だしはいい感じがした。
が、気のせいだった。
右足と左足が重なる部分、ここにどうしても痛みが出る。
ダルシム式の敗北とともに11時の鐘が鳴る。
ダンマバーヌの昼は早い。
ホールから階段を降りて、皆が別棟の食堂へ。
僕は建屋に残った。
階段降りた廊下の壁にぶら下がった掃除道具からコロコロを手に取る。
寝床へ向かい、自分のベッドを掃除する。
アトピー持ちでよく粉を吹く僕の肌。
皮膚薬を忘れるという致命的なミスを犯し、この3夜で僕のベッドは悲惨な状況に陥っていた。
自宅であれば近所に24時まで営業してる薬局がある。
しかしここはダンマバーヌ。
そもそも合宿中はこの区域から出てはいけないし、出たところであるのは山と道しかない。
風呂に浸かって肌をキレイにすることもできず、吹いた粉掃除は最終日まで続くこととなった。
昼休憩の回復率は高い。
量が少ないとはいえ、食事で癒されるし、次の13時までたっぷり1時間は散歩ができる。
座り方を試行錯誤しつつ、呼吸以外の感覚に集中する。
とはいえ、それがどんなものかわからないのだが・・・。
鼻の付け根と上唇の間、ここに神経を集中する。
じっと観察する、見つからない、観察する、見つからない・・・。
諦めて呼吸を観察したその時、ヒゲのところに何かジリジリする感覚を感じた。
ん?これか?
引き続き粘る。
ジリジリしたところに「痒み」を感じた。
やった、感じた!先生、感じたよ、呼吸以外の感覚!!!
これだ、たぶんこれでいいんだ!
昔から肌が弱かった。
痒みとは苦しいもので。
自身の痒みでこれほど喜んだことがあっただろうか?
そして、歓喜は僕の脳内でのみ起こり、誰にも気づかれることなくやがて沈静化していったのである。
15時半からの瞑想。
僕はあぐらの足の上下を変えた。
あぐらをかいた時により自然な組み方、これを優先してたんだけど、もうそんなこと言ってられない。
右足を下に、左足を上に、その組み方でなんとかマシにならないか。
結果的に大した差はなかった。
僕は決心する。
もう無理だ、今日の最後に先生に座り方を聞こう。
ティータイムを経て、18時から今日最後のグループ瞑想。
気づいたことがある。
勃起をしなくなったのだ。
瞑想中に意識はてんでどこへやら行ってしまうもので。
それをコントロールできない。
いや、恥ずかしい話、エロい妄想の世界へ行ってしまうこともあるんだけど。
行ってしまうのは行ってしまう、女性の裸体が頭に浮かぶ。
でも、そこでチンコが反応しなくなった。
これは驚くべきことで、僕自身も客観的にえっ!?ってなった。
それを成果と呼ぶのかわからないが、修行の成果が出始めている、そう実感する瞬間でもあった。
さて、今日の講話はビビる内容。
ええと、今日までやってきたのはなんとヴィパッサナー瞑想ではないんだと。
アーナーパーマ瞑想というやつで、いわばヴィパッサナーをするための準備段階。
明日から心の手術だ、という宣告があった。
そんで、もう一つ。
明日から姿勢を崩しちゃダメって。
いや、キッツいなぁ・・・。
正確には全部の瞑想で姿勢維持ってわけじゃないくて、ホール集合必須のグループ瞑想3回はねって話なんだけど。
それでも痺れる。
まだ痛み問題が解決できないない中、死刑宣告に近い気がした。
講話の後、30分ないくらいのショート瞑想。
いやあ、これは短く感じるのよ。
ここで新たなお題。
今までは鼻の付け根から上唇までのトライアングルで呼吸以外の感覚に気づけ!ってやつ。
それが、キュッと面積が縮まって、鼻腔の下と上唇のトライアングル、ここのエリアで呼吸以外の感覚に気づけ!だって。
その意味に気づくのは明日だった。
さあ、21時で瞑想が終わり、質問タイム到来!
待ってました!聞きます、座り方!!
今日も一番手で先生の前に座り、単刀直入に聞く。
座り方に決まりはあるんですか?
答えはシンプル、ない。
体育座りでもいい。
えええええ!!!!!???
内心ビビる。
ビビって声が出ない。
そこに補足説明をしてくれる。
楽な姿勢でよくて、あぐらが一番楽。
足が重なっちゃうと痛いから、こうやって手前側の足の踵を肛門の下につけるといいよ。
なるほど!
あれ?こんな大事なことも聞かなきゃ教えてくれないの?