Day4 肛門への踵落とし

パチっと目が覚めた午前4時。

別棟のトイレへ行く途中、宿舎の玄関口に張り紙が。

 

14:30からヴィパッサナー瞑想

必ず出席すること

 

なんか、そんなことが書いてあった。

おおっ、ついに!

と同時に、朝一からじゃないんだねって、少し安堵する。

 

さあ、朝一のネムネム瞑想。

今日は一味違う。

恐怖でしかなかった朝の瞑想が、足の痛み改善への期待で少しワクワクしてる。

昨日師匠に聞いた座り方、いざ実践!

今までは胡坐をかく時に足をクロスさせてた。

これをしない。

左足の踵を校門の下へ。

右足は指を左足の膝の下のあたりに当てる。

だから、足がクロスしない。

左足で肛門へ踵落としをするイメージだ。

果たして、昨日師匠に教わったこの座り方で足の痛みは劇的に改善した。

痛くない!

師匠、痛くないよっ!!

震えるほどの感動、師匠へ報告したい衝動、隣人に教えてあげたいソワソワ。

聖なる沈黙によって、瞑った瞼の下、僕は頭の中で一人盛り上がっていた。

これなら瞑想に集中できる!

 

・・・が、現実はそこまで甘くはなかった。

30分が過ぎ、1時間が過ぎる頃(目を瞑ってるので予測だが)、ジワジワと足が痛み出した。

とはいえ、その痛みの強度は昨日までのそれを比べたら、遥かに小さい。

だから、これがベストの座り方であることは間違いないのだ。

 

ハッとした。

最初から「座り方はこうだよ」と教えられても、ここまでストンと腹に落ちただろうか?

否、おそらく頭の中に「もっといい方法があるんじゃないか?」というモヤモヤを抱えたままだったろう。

これが最短なのだ。

3日間苦しんで、苦しみ通してから教えを請うて、実践してみる。

この全ての過程が必要だったのだ。

イチローの姿が頭に浮かんだ。

遠回りが一番の近道。

とあるインタビューで語っていた言葉。

どれだけいい成績を残しても必ず翌年は打撃フォームを変えていたイチロー

例えば、間違った方向にフォームを変えてしまって、元のフォームに戻したとしても、それは無駄ではないのだという。

元のフォームのまま変えずに「違う形の方がいいのかもしれない」と思いながら打つよりも、「違う形ではよくないからこっちの方がいい」と納得した状態で打つのでは、全く違うからだと、そう言ってた。

朝一のターン終了の鐘が鳴った。

もう、足は激痛までいかない。

違う世界が開けていた。

 

足の痛みはゼロではない、だけど確実に半減してる。

その分、瞑想に集中できる。

課題である、「呼吸以外の感覚」に集中する。

相変わらず意識は別に移ろいながらも、鼻の下のジリジリする感覚、これを見つめる。

いや、目を閉じてるから見つめているわけではないんだけど、そんなイメージ。

ジリジリ、ジリジリ・・・ジリジリ?ドクドク??

見えた!

ジリジリの正体は脈動だった。

感覚を感じる感度が低くって、その現象の解像度が低いから「ジリジリ」としか感じ取れていなかったのだ。

画像データが荒いから拡大してみたら細かい構造がわかるのと全く同じ。

逆に言うと、範囲が広いと荒くしか見えない。

範囲を狭くするからこそ、感覚の解像度が上がる、上げることができるのだ。

なんかそれって、パソコンの仕組みと同じだよな?

この課題はクリアした、そんな確信を得た。

 

昼一の瞑想、生徒は順に先生の元へ呼ばれ、状況を確認される。

どうですか、鼻の下に呼吸以外の感覚を感じますか?

僕は自信を持って「脈」と答え、隣の隣、サーファーのお兄さんの番。

 

足が痛くてそれどころじゃない

 

今までの生徒たちがあらかた「できてます」の回答を連ねる中で、この正直ど真ん中の回答。

僕は感動すら覚えた。

そして、次の瞬間それは驚愕に変わる。

師匠の回答は「少しでいいから感覚を感じないかトライしてみて」というものだったと思う。

言葉を正確には記憶していないけれど、趣旨としてはそういうこと。

僕は思わず目を見開いて師匠をガン見した。

 

なぜ、座り方を教えないんだ?????

 

自席に戻り、目を瞑る。

僕は解せなかった。

僕には昨日座り方を教えてくれて、そのおかげで今日から劇的に足の痛みが改善している。

このサーファーのお兄さんだって、そうなるはず。

教えたら、それで解決じゃん。

なんで教えないんだ?

師匠の、頑ななまでのその姿勢に、僕は混乱した。

昨日聞いた僕にはアッサリ教えてくれて、それでめちゃめちゃよくなってて、こんな大事なこと、なんでまず初めに教えないの?って思ったくらいなのに。

今、目の前には一番教えてあげた方がいい生徒がいて、それでも教えない。

聞かれるまでは教えない。

その徹底ぶりに度肝を抜かれた。

どうしてなのだろう。

何か掟があるのかもしれない。

「本人が質問しない限り、教えてはいけない」といった。

確かにそぐわないかもしれない、この合宿には。

エントリーも含めて、この修行は究極的な自主性がないとできない。

そして、一方的に「こうしなさい」と言われたことって、できなかった時の言い訳になる。

そうやれって言われたから。

だから自分のせいじゃない。

その隙すら、致命傷になる。

その考えのもと、教えたい衝動をこらえて、本人のために敢えて「聞かれたこと以外教えない」と言う姿勢を貫いているのかもしれない。

全ては想像だけれども。

 

あっという間に、でもないか。

14:30の、その時はきた。

まずはいつも通り、ゴエンカ氏の録音テープが流れる。

さあ、どんな指示が飛んで来るんだ!?

恐怖、不安、期待。

ドキドキしながら聞いていると、これまでの課題と同じ。

あれ?

拍子抜けしていると、そこからテンションの高い気合の入った声が飛んできた。

「move up! move up! top of the head!」

う、うへえっ!!??移動すんの!?

初めての動作でよくわかんないながら、サーチライトを鼻の下から頭のてっぺんに移動するイメージでそのてっぺんの感覚を探る。

・・・何も感じない。

「move down! move down! from top of the head to the・・・」

ええっ!?もう移動すんの!!??

頭のてっぺんから顔、首、胸のあたりでビビる。

食道、心臓、肺、これらの動きが3Dの感覚でくっきり浮かび上がる。

そのあまりのリアルさにビビって息が荒くなる。

今まで自分の内臓を直接観察したことなどない。

そして、ゴエンカさんの実況、早い、早すぎる!

全然ついていけない。

 

昨日師匠に座り方の質問をしていなかったら、ヴィパッサナーどころじゃなかった。

下がって、下がって、最後はつま先の先端へ到着。

到着したら頭のてっぺんへ戻って、またつま先までダウン、ダウン。

ダウンしながら、今意識している箇所の感覚を感じ取れ!ってお題なんだけど、感覚を感じ取れないところばっかり。

初めてのヴィパッサナーはほとんどついて行くので精一杯という感じ。

 

ちなみに、「足が痛くてそれどころじゃない」って言ってたサーファーのお兄さん。

このヴィパッサナーの開始直前に先輩の一人が声をかけにきてた。

もともとこの回から「姿勢は途中で変えちゃダメ」って宣告されてたんだけど、きつかったらこうしなさい、というようなフォロー入れてくれてた感じ。

できない奴はバッサリ切る、ではなく、その人に合ったペースを許す、という優しさが垣間見えた瞬間でした。

 

この日はこの後ひたすらこの課題を修行して終わり。

座り方の方法がギリギリ間に合ったな。

そんな感想。

 

僕はこの日初めて最後の質問に行かなかった。