全てが揃う瞬間はないのである

明日の予報は雨。

ならば、と昼、仕事の合間に玄関を出る。

土曜の昼に「仕事の合間」とか言ってる時点で、終わってるよな・・・。

 

去年、咲いていない時に見つけた桜所。

確か、この辺り。

記憶を頼りにペダルを漕ぐ。

あった、川沿いに垂れる桜。

橋の上、ブレーキを握る。

ああ、また一年、生き延びてしまったんだな。

 

修行時代、日付をまたいだ桜の名所。

コンビニで、なけなしのお金でチョコ買って。

ベンチに座って見上げた桜。

お金も時間もなかったけれど、希望だけはあった、あの日。

昼間に見る、キレイな桜。

お金はあるけれど、時間も希望もない、今日。

どっちも、僕だ。

桜を通して、あの日の僕に会う。

合わせる顔がなくて、僕は引き返した。

一つの真理が浮かび上がる。

人は常に何かを得ていて、代わりに何かを失っている。

全てが揃う瞬間はないのである。