ほぼ徹夜明けで出社して、夜10時を回ってから事務所を出る。
身体が鉛のように重たい、とまではいかないが、首に妙な痛みが走る。
まあ、終電よりも早い電車には乗れる。
ホームでゲロ吐いて叫んでぶっ倒れてる若者を避け、いつもより3つズレた乗車口から車両に乗り込む。
コロナプラスこの時間ってことで、席はガラガラだ。
窓側にもたれ、意外と眠くないと思う。
でも、寝よう。
ガタンゴトン・・・。
レールから伝わってくる音で目が覚めた。
ドアの上に設けられた電光案内が目に入る。
「次は終点、豊橋」
幻覚だと思いたくて、もう一周見たが、機械は正直。
僕の最寄り駅である蒲郡駅は過ぎていた。
5分間くらい現実逃避をしてから、敗者復活可能なのかを調べる。
便利なもので、路線情報を検索すれば電車で蒲郡へ往復ビンタ可能なのかが簡単にわかる。
結果、電車はなかった。
再び、現実逃避。
いや、まだ希望はある。
名鉄ならまだ便があるかもしれない。
豊橋駅に着いて、電光表示を見る。
淡い望みは絶たれた。
電車によって自宅に近づく術はない。
八方塞がりのこの状況。
さて、どうしたものか。
ひとまず、改札を出て外の空気を吸う。
今の自分に残された選択肢に想いを馳せる。
①満喫かホテルに泊まる。
②酒でも飲みながら歩いて帰る。
③タクシー
悲しいかな、まずお金。
一番安いのは明白。
駅前の満喫の前に立ち尽くす。
う〜ん、泊まりたくない。
嫌だ。
じゃあ、歩いて帰ろうか。
コンビニに入り、ハイボールを買う。
プルトップを開ける前に、家までの徒歩を想う。
曜日は火曜を迎えたばかり。
ろくに休んでない状態で、さらに3時間くらい歩いて、今週を乗り切れるか?
ハイボール缶の開封は思いとどまり、新幹線口側のタクシー乗り場へ向かう。
閑散として人影の少ないロータリーに3台のタクシーが直列に並ぶ。
思わず一旦通り過ぎる。
お金が惜しいのだ。
器の小ささが身にしみる。
タクシーの背後で自分に問う。
今、大事なことは何?
答えは出た。
先頭のタクシーに乗り込む前に運転手さんに教えを請う。
「蒲郡駅までいくらぐらい?」
運ちゃん、目を瞑り、眉間に人差し指と中指を当てながら試算した金額を言う。
8〜9千円なら、いいや。
ガラッガラの国道23号線。
太陽が昇り始めた博多をバイクで走った23歳を思い出す。
コロナ対策で2割ほど空いた後部座席の窓。
そこから流れるひんやりした空気が、妙に心地よかった。