ヴィトンの財布

じいちゃんは、去年死んだ。

90歳の大往生。

60代70代前半くらいまでは結構元気で、秋の肌寒い朝にタンクトップ一枚で一輪車を転がすような、ナイスガイだった。

その元気な頃、よく旅行に行ってお土産を買ってきてくれた。

これがまた、しょーもないモノばっかりなの。

中国で買ってきたという、パチモンのヴィトンの財布。

ガイドさんの制止を振り切り、1万円で買ったという。

開けると、残留する粘着成分が若干気になるこの財布。

全く使いたいという欲望が沸かず、机の引き出しで10年以上眠る。

引き出しを開ける度、あぁ・・・と思い出す。

 

それからしばらくして、じいちゃんは旅行土産の代わりに現金をくれるようになった。

「ありがとう」と嘘をついて受け取っていた僕。

ほんとは毎回パチモンのブランドモノの方が嬉しかったんだよ、じいちゃん。

お金の方が、便利なんだけどね。

不思議と何に使ったかは覚えていない。

 

ガイドの制止を振り切って買ったという、パチモンのヴィトンの財布。

記憶の中の、じいちゃんの形見なのかもしれない。