メキシコは強かった。
仕事してる場合じゃない、そう思って2日間の有給を取った。
とはいえ、仕事は休んでくれない。
そして、完全に休むと明けてから死んでしまう。
ノートパソコンを開きつつ、その奥でテレビ中継を流しつつ、電話が来たら消音して。
そんなことができたのも、中盤まで。
いよいよ日本が負けそうってなってきて、もう仕事してる場合じゃねえ!ってなった。
ノートパソコンを閉じて、脇にやる。
すごい試合で、見所が多すぎてなかなかここって挙げられないけれど。
吉田選手のホームランのシーン。
たしか2球目のチェンジアップを思いっきり空振り。
インコース低め、ストライクゾーンからボールゾーンへ落ちる球。
チェンジアップだと思う。
ここで、メキシコバッテリーは「この球を決め球に」という想いを抱く(抱いたんだと思う)。
僕は全く違う感情を抱いた。
次、吉田選手は同じ球を打つかもしれない。
今までさんざん目にしてきた、吉田選手のバッティング。
追い込まれる前、初見の球、それらと追い込まれた後、一度見た変化球に対する吉田選手はまるで別人。
別のバッターのような対応をする。
速い高めのストレート系の球を挟んで、もう一度さっきと同じ軌道できたチェンジアップ。
それを、吉田選手独特の、前に大きく払うような捌きかたで打った。
大谷選手のような圧倒的な打球速度ではない。
それでも打球は大きな弧を描いてライトホール際に収まった。
チェンジアップをマークしつつ、ストレート系は少し振り遅れ気味にカットできるタイミングで待つ。
チェンジアップにバッチリのタイミングでもない。
ただし、前に大きく払うような打ち方によって、チェンジアップを捉えたときにフェアゾーンに持っていける。
吉田選手にはこれができる。
至極の技術。
ホームランになったのは、絶対に運もある。
でも、それは吉田選手の技術がないと不可能だった。
高校野球まで僕もプレーしていた。
サッカーではここまで楽しめない。
野球なら違う。
それは、プレーのすごさがわかるから。
野球選手としては落第生だった。
でも、僕には観戦者としての道が残っている。
すげえしょぼい道だけど、でも、僕は日本代表が負けたとしても、決して彼らをバッシングしたりはしない。
このメンバーで負けたらしょうがない。
それがわかっているから。