だが僕は走った

現場へタクシーで向かう朝。

車体の振動に揺られながら、瞑っていた目を開ける。

いつもと違う道へ折れる運転手さんに問いかけると、「ものすごい渋滞だから」って返ってきた。

確かに、横目に見る国道が強烈な渋滞に見舞われている。

機転を効かせてくれた運ちゃんのおかげで、脇道ながら、進んではいく。

しかしながら、いずれは国道へ合流しなければ現場にはたどり着けない。

いざ、信号を左折して合流した地点は、悲しいかな、まだ渋滞の只中にあった。

いずれ右折するために右車線を走る、ことができずに止まっているタクシー。

信号が虚しく5ターンくらい青から赤を繰り返す。

車体は全く進まない。

あと、4~5 kmくらいだよね?

運ちゃんは同意した。

現場の朝礼まであと30分。

僕は決断した。

支払いを終え、リュックとパンパンの手提げカバンを持って、傘をさしながら走る。

熱くなってネックウォーマーを脱いでいたとき、同行者から「忘れ物をしたから約1時間遅れる」と電話が入る。

彼らのために同行する僕に、もはや急ぐ必要はない。

だが僕は走った。

朝礼直前のラジオ体操の胸を張ってのけぞるくらいのタイミングで会場へ滑り込んだ僕。

現場の方々も渋滞にハマって遅れている人がいるようだ。

僕なんて、全くもって間に合う必要はない。

僕が何のために生きているのか、この辺の不可解な行動にヒントがありそうだ。