DayX 最硬の脱糞

解放の朝。

僕は3時台に起床して、できるだけ物音を立てないようにベッドのシーツの片しやら、荷造りやらを進めた。

4時半からは本当に最後の瞑想。

終わると朝食をとって清掃して、という流れなんだけど、僕はそれには参加せずに先発で帰路に就きたい人の送迎車に乗せてもらった。

その代わり、早起きして掃除してっから許しておくれ。

 

出発まで、つかの間の待ち時間。

ひたすら歩いた庭を最後に一周する。

もう、初日にホカホカだった野生動物の糞は土にしか見えない。

代わりに、違う位置にホカホカのウンコが落ちている。

なんだかジーンとこみあげてくるものがあって。

RPGのゲームを全クリした時のような寂しさ。

早く帰りたい。

お風呂に入りたい、お腹いっぱい食べたい。

ここから出たい。

そのはずなのに、なぜか寂しさも確実に存在していて。

 

バスターミナルへ向かう車中では平気で英語が飛び交う。

一人英語圏の外国人がいたからなんだけど、リスニングさえままならない僕は肩身が狭かった。

英語喋れる人って、なんであんなにカッコよく見えるんだろうね。

 

その一団の中にはサーファーの兄ちゃんもいて、ラインを聞かれたけれど断った。

プライベートの携帯は持っていない。

社給スマホならいいよ、そう言ったけれど、それは知らなくてもいいようだった。

 

バスの中では奉仕者の方と話すことができた。

生徒の食事の用意をしたり、空き時間は一緒に瞑想したりする人だ。

会話のなかで「あそこにいると、生きていくのに情報っていらねえんだなって思う」って一言がとても印象に残った。

 

さて、10日ぶりのバス。

前回の乗車とは全然違う。

バス自体は変わらないのに、僕が変わったから。

乗っているだけなのに、その情報量の多さに圧倒される。

走行時の車体の揺れ、窓の外に流れる景色、唸るエンジン音、すれ違う乗用車の音。

来るときは気づかなかったけれど、ものすごい情報量を食らっていたんだ、バスに乗るってことは。

 

到着した駅からは、電車。

京都駅で新幹線に乗り換える。

京都駅でまた衝撃が走る。

改札までの人の多さについていけないというか、ものすごいストレスを感じた。

シンプルに、人の多さがキツい。

人間の脳は原始時代からさほど変わっていないという。

そんな脳にとって、こんなに人がうじゃうじゃしている状況というのは、相当なストレスなんじゃないだろうか。

新幹線では駅員さんから「乗る座席を間違えているよ」って指摘を受ける。

娑婆で生活していくためのあらゆる能力が落ちている、そんな印象。

 

味覚も完全にダンマバーヌ仕様になってる。

帰りに山ちゃんの手羽先を買って食べたんだけど、その匂いが激烈に臭い。

もちろん、商品が腐ってるわけじゃなくて、僕の嗅覚が研ぎ澄まされすぎているからだと思うんだけど。

肉って、こんなに臭かったのか!!

 

明日から出張。

帰宅後は休む間もなく、バタバタと準備に追われる。

夜11時頃、10日間ぶりのウンコが出た。

小石くらいの硬度を感じながらの脱糞。

おそらく、食事の量が少ないから、限界まで栄養素を搾り取ろうと、腸が出さなかったのではないか?

この修行で、僕は10日間という便秘自己最高記録を打ち立てたのだった。