乾く息子、濡れた父

朝、近所の子が息子を遊びに誘いにきた。

ありがたい話である。

出て行った息子はものの数分で戻ってきた。

ん?

その後、またピンポンが鳴り、近所の子が誘いにきた。

「さっきはごめんね、あそぼ」

ありがたい話である。

ところが、息子はうんともすんとも言わない。

黙って半開きの玄関でモジモジしている。

奥さんはうつ状態で動けない。

僕が仲裁に入る。

遊びたくないのか?と問うと、微かに頷く。

ごめんね、誘ってくれてありがとう、そう言って近所の子を追い返す。

奥さんの状態が悪くって、「このままでは将来息子は・・・」と不安で潰れた奥さん。

今日は奥さんの友人が家にやってくる。

マズイ、息子と一緒にどこか行こう!

インターネットで行き先を占うも、なんかイマイチパッとしない。

ええい、こうなったら浜名湖散歩だ!

息子と電車に乗って浜名湖ど真ん中くらいの駅で下車。

少し歩くと、浜辺があった。

遊ぶ息子、相変わらず周りの子とうまく遊ぶことはできない。

うんうん、我が息子らしいわい。

トボトボ歩いてきた、思ったら、「トイレ行きたい」と言って、その場で漏らしてしまった。

遊びへの集中力が高すぎて、トイレを忘れてしまったのだ。

せめてズボンを脱いでパンツで遊んで、その間にズボンを乾かしてはどうか?と提案したが、首を横に振る。

僅かな希望を胸に、近くにあったサーフショップのドアを開いたが、当然大人ものしかなく、場違いな気まずさに背中を押されて退店。

僕は走った。

橋を一つ越え、キャンピングショップに駆け込む。

両手で宙に丸いモノを描きながら「子供の服ありますか?」と聞き、ないと即答される。

ここで引き下がるわけにはいかない。

漏れた事情を説明し、この辺に子供服が売っていそうな店はないか?と聞く。

親切な店員さんは可能性は低いけどコメリを紹介してくれ、僕はまた走った。

橋をもう一つ越え、園芸品メイン感が強そうな外観の店内へ突入。

店員さんを捕まえて聞くと、ないと即答され、退店。

戻りがてら、薬局、コンビニ、釣具屋も見たが、大人用のパンツはあれど、子供用はない。

汗だくで走って戻ると、息子の股間はすでに乾いていた。

乾く息子、濡れた父。

これだけ便利な世の中で、でも、こうやってほしいものがすぐに手に入らないことに、なぜか嬉しさを感じている僕がいる。

この気持ちは一体、なんなんだろうか?