テーブル席なのに、カウンタースタイル

しぶとく生き残ってるよな。

通る度にそんな違和感を感じていた。

ひらけた景色が広がる海岸沿いの国道。

そに佇む寂れた風貌のファミレス。

間違いなく個人経営。

きっと、たいして味は美味しくないはず。

だけれども、その存在感が気になっていた。

 

坊ちゃんと二人の夜。

今日、いいタイミングだな。

そう思った。

 

通りがかりに見かけると「近いな」と感じていたけれど、いざそのために「行こう」となると案外遠い。

空腹がそう感じさせるのかもしれない。

空調がいらない、夏の終わり。

今、ちょうどそんな短い季節。

開けっ放しのエントランスをくぐると、テーブル席に加え、広々した座敷が広がる。

天井が無駄に高くて気持ちがいい。

ちょうど、食事を済ませたお客さんが一組会計をしているところ。

「ごちそうさま」と言って帰っていく。

「お好きな席へどうぞ」と通され、入り口付近のテーブルに掛ける。

坊ちゃんが反対側の椅子から僕の隣にやってきた。

テーブル席なのに、カウンタースタイル。

いいよね、固定観念に侵されていない。

大人同士だと、こうはならない。

 

向かって右手の入り口の反対側、左手にある畳席の上には、お子様用の小さな椅子が重ねてある。

さすが、ネット情報で席数150以上の余裕っぷり。

ただ、その埋まり具合は寂しい。

座敷のお客さんは皆無。

テーブル席の埋まりはざっと3割程度だろうか?

まだ明日も休みという週末のディナーゴールデンタイムでこの客入り。

コロナの影響もあるのだろうか。

 

幅広いジャンルの中から、坊ちゃんが迷わずトマトスパゲッティをチョイス。

写真って大事だよな。

なかなか子供目線にはなれないけど、写真なら文字読めなくても理解できるもんね。

 

追加でフライドポテトと焼肉サラダ、最後にチキンステーキを注文し、黒いマスクを着用した若いお兄さんが「フライドポテトも?」と確認してから下がっていった。

待っている間、昔から来ています、という体の家族連れちょくちょく慣れた様子で入ってくる。

肩の力が抜けているのが、わかる。

 

出てきた料理は、ほぼ予想通り。

不味くはないけど、たいして美味しくもない。

でも、いいところが必ず一箇所あるの。

付け合わせのサラダのドレッシングが、案外絶妙な酸味だったり。

チキンは地元産って謳われているくらいで、プリップリで肉自体の良さがあったり。

焼肉サラダは、肉の量ケチってなかったり。

ポテトも、なんか足りないんだけど何が足りないかわからないくらい絶妙な加減で仕上がっている。

 

大人サイズのパスタを一人前ペロリと?完食し、パンパンのお腹でパフェを食べると言い張る5歳児。

ダメ、という理由も見つからずテーブルの隅に設置された呼び出しボタンを押す。

注文をとった時とは違う若いお兄さんへオーダーし、済んだお皿を下げてくれと頼む。

やってきたお兄さんは台車に食器を乗せ、なぜか僕のお冷も下げていった。

トマトソースがおっさんのヒゲのごとくついている坊ちゃんの口元を拭おうとすると、お手ふきもない。

お手ふきは坊ちゃんの分まで下げていったのか。

気を利かせすぎだ。

 

坊ちゃんがパフェと格闘し始めた姿をぼんやり眺めていると、腰の曲がったおばあちゃんが僕のお冷がないことに気がついた。

ごめんなさい、と詫びながらもう一度出しましょうか?と尋ねるおばあちゃんに対し、かぶりを振りながら「いいっす、いいっす」と断る。

 

5分後くらいだろうか。

坊ちゃんのパフェとの格闘が長引く中、「どうぞ」と短く添えて温かいお茶を出してくれた。

特に愛想がいいわけではない。

でも、気遣いである。

失敗したことに気がつき、さりげなくフォローができる。

大袈裟にしすぎないところも、僕には心地よかった。

こういう人がホールにいるから、お店は経営を続けることができる。

 

気を利かせすぎたお兄さん。

彼はきっと、気づいていない。

なんだか、自分の過去に対して不安になる。

たっくさん、それはもうすごい数、このお兄さんみてえに自分の失敗に気づいていないまま生きてきたんだろうな。

 

すっごいたくさんの人たちへ。

ごめんね、そして無言で許してくれてありがとう。

もちろん、叱ってくれた人もありがとう。