彼の地声

夜も更け切りそうな、会社の事務所。

 

あのさ、ほとんど喋ったことないけど、同期だよね?

覚えてる?

 

前方、モニタの左側からひょこっと顔が覗く。

つい、2ヶ月ほど前別の事業所から異動してきた人。

同期だとは気づいていたが、できれば気がついて欲しくないと願い、存在感をMAXまで下げ、可能な限り目を合わさぬようにしてきた。

恐らく、ずっと話しかける機会を伺い、皆が帰って二人きりのこのタイミングだ!と思ったのだろう。

しまった、早く帰るのだった・・・

 

できるだけ暗い雰囲気になるよう、僕が会社辞めた時の話をしたのだが、努力の甲斐なく「今度ご飯食べに行こうよ」みたいなことを言われ、しどろもどろになる。

彼の部署には元々、同期がいる。

H君としよう。

余談だが、彼は入社からブックぶくに太った。

H君は痩せていた時も、太ってからも、僕に話しかけてなんかこなかったのだが・・・

「ご飯行くのはH君が痩せてからにしよう!痩せてから3人で!」と言ったのだが、「痩せてから」という部分が全く伝わっていないような返しをされ、なんだかよくわからないまま話は終わってしまった。

 

隣の部署にいても、彼の地声はよく聞こえてきた。

「昨日友達と飲みに行ってきたんすよ!・・・」

そんな威勢のいい声が、よく聞こえてくる。

僕なら「昨日は一人で夜お散歩して読書して寝ました」と言うだろう。

しかも、誰かに聞かれた場合のみだ。

 

別に、彼のことが嫌いなわけではない。

嫌う前に、知らない。

知ろうともしていない。