烏滸がま

違う、違う。

左手の位置が違う。

右側を掴まないと。

 

ゴールまであと一つ。

そのゴールのホールドが掴めない。

左手で触れるけど、掴めない。

 

刻々と減っていく、握力。

そんな中で背後から店長の声が朧げに耳に届いた。

違う?

ん?左手?右側?

はい?

握力が尽きかけた数秒後、僕は理解した。

横に長いホールド。

僕はその左側のつかみにくい箇所を左手で掴み取ろうとしていた。

でも、それが全然指を引っ掛けられないの。

そのホールドの右側。

その右側の奥、正面からは見えない奥行きに、指を引っ掛けられる空間があった。

これだ!

左手でガッチリ捕まえ、右手をホールドの左側へ。

 

先入観、だよな・・・。

左手だから、左側を掴もうなんて。

でも、これでまた一つ視野が広がった。

というか、見えているのが全てじゃないし、無意識にそう感じてしまっている自分は烏滸がましい。

見えているものに囚われずに生きていきたいものですね。