280円

八百屋。

この言葉は10年後には死語かもしれないね。

 

大通りを一本入った一方通行の一角にそれはある。

軒先にぶっきらぼうに陳列された野菜達。

破格。

中〜大サイズの玉ねぎが3つ入って120円。

それだけ持ってレジへ向かおうとすると、何かを食べながら「そのいっこ右!」と椅子にもたれながらナナメに主張する。

はて、僕に言ってる?

 

玉ねぎのいっこ右は売り切れて何もない。

そう告げると、「じゃあもっと右!」とあいも変わらずナナメの体勢で訴える。

グッと角度をズラすと、どっさりビニール袋に入って100円の可愛いくらい小ぶりなジャガイモがそこに。

うっ、これか・・・。

この量で100円だと!?

結局、追加で手に取った100円のミニトマトもこのジャガイモも80円になった。

 

売れ残ったら作った人が可愛そうやしのう!

 

抜けまくった歯のせいか、発音がおぼつかないもろ浮浪者のような風貌の店主。

そう言ってた気がする。

こんなズッシリ重たくて、しめて280円。

なんじゃその安さは!?

 

別に、清潔なスーパーマーケットで買うこともできる。

お金に困っているわけでもない。

合理的に考えれば、品揃えのいいスーパーでまとめて買った方が時間もかからない。

じゃあなんでここで買うかって?

なんだろう、この浮浪者のような小汚いオッさんの人間臭さ。

これを肯定したいんだ。

きっとそうだと思う。

5億回

花火をしよう。

同じマンションに住む男子に誘われたのだという。

 

近所のドラッグストアに花火を買いに行く。

ドラッグストアは無敵の品揃え。

しかもコンビニよりも安い。

無敵だ・・・。

 

テキトーに一番安いセットを買おう!

そう意気込んで入店したドラッグストア。

これかな、と手に取った後、右側に小ぶりな花火。

線香花火、回転するやつ、ロケット花火・・・。

「こっちだ」と脳が反応する。

僕が子供の時からあったやつら。

大きなセット品を元の場所に戻し、一種類ずつの花火を手に取っていく。

 

公園に戻り、着火していく。

「線香花火は最後にやるものでしょ?」という奥さんからのクレームを物ともせず、やりたいやつからやっていく。

キャッキャはしゃぐ子供達。

井戸端会議に花を咲かせる奥さん方。

 

一周したんだな。

不意に時の流れを痛感する。

僕が子供の頃に見た風景。

場所と時間と人が違うだけで、おんなじ景色。

じいちゃんは、もうこの世にいない。

 

人は5億回呼吸すると寿命だという。

あんな風になりたくねえな

電波を介しての打ち合わせが増えた。

回によっては3桁の人数が参加する。

そうなると、必然的に、参加したというよりも聞いていただけのものとなる。

 

とある発表が終わり、質疑応答タイム。

これだけの参加人数になると、コメントするのはもはやかなり偉すぎるスキルくらいの人だけとなる。

というか、時間もそんなにないのだ。

 

だから〇〇じゃねえか!

 

たぶん、参加してる中で一番偉い人。

声だけなんだけど、すんげー態度悪いの(笑)。

そんで、その指摘が「何が言いてえの?」ってことがさっぱりわかんない。

だから担当者もひたすら「そうではないです」と返す。

声からイラつきが滲む。

終わらない押し問答。

しばらく経った頃合いで、「〇〇ですけど、」と担当者の上司が割って入った。

 

「お金を先に決めているわけじゃないんです。取引先を決めてから協議しているんです」

 

そのフォローで、偉い人は沈黙。

ああ、そうか。

それが気に食わなくて、というか「その発表内容だとお金損してるんじゃねえのか!?」って思って、なんかうだうだ言ってたんだ・・・。

あのね、その偉い人のコメントって、そんなこと1ミリも聞いてないの(笑)。

そんで、経営者ってのはお金のことしか考えていないんだね。

 

なんか、思った。

この人、会社引退したら周りから人、いなくなるんじゃないか。

 

数日後、たまたま出社が重なったスナック好きの上司が長々と世間話。

そういう機会も減ったよね。

話題はその会議に。

 

「管理職になると、ああなっちゃうんだね・・・。あんな風になりたくねえな」

 

ごもっとも。

あんな風になってまで、偉くなる必要なんてどこにもない。

もっとも、偉くなるのが悪いんじゃない。

これは、と思う人が大きなハンコを持つことはいいことだと思う。

僕の勝手な思い込み

行ってみると、同じ部署で出社するのは今日僕一人だった。

緊急事態宣言が明けた云々、出社率へのインパクト無し。

隣の部署では新人が一人ポツンと座る。

そこに気を使うこともなく、気遣い満点の人が声をかけているのが耳に入ってきて、ハッとして振り返る。

のは嘘で、実際は振り返ってもいない。

 

育ちにくいんじゃねえかな・・・。

 

というのは僕の勝手な思い込み。

ついつい、自分のやってきた環境の方が良かったんじゃねえかなって思いがち。

育つ奴は育つし、育たねえ奴は育たねえ。

たぶんね、それが原理原則。

僕が一番わかってるって、傲慢

休もう。

そう思って、取った第三休日。

 

坊ちゃんが「行ってきまーす」してるところを寝ぼけながら畳の上で聞く。

そろそろ起きねば。

30分後にやっとこさ起き出す。

ほんとは昨日やんなきゃって思ってた仕事。

やりだすと、意外とかかるよね、時間。

でも、睡眠十分だから頭がよく動く。

よく動くといっても、知れてるスピード感だけど。

頭の回転の遅さを自覚してから早12年。

自分のセールスポイントはスピードではない。

 

合間にピーッ、ピーッと洗濯機の音が鳴って、ベランダに干したり。

部屋の掃除をしたり。

気づけばもうAMは終わりが近い。

一日って、短えよな。

 

どこか悪いところありますか?

整体師さんの質問に「どこもありません、贅沢しにきました」と定型句で答える。

まず足つぼで強烈な痛みを感じながら、なぜか我慢できてしまう不思議について、暗闇の中で疑問に思う。

暗闇の中で、他人に身体を触られている感覚だけ。

どこに行っても情報過多の世の中で、この情報の少なさが心地いい。

足つぼが終わって、ボディへ。

肩、我慢できるギリギリまで痛い。

「痛えからやめて!」って喉の手前まで来てる。

終わって整体師さんから「肩、ゴリゴリでしたね」ってコメント。

 

自分の身体の状態。

僕が一番わかってるって、傲慢だね。

一番わかっているからこそ、わかっていない部分だってあるさ。

 

後になってみれば

ベープマット、蚊取線香の家電バージョン。

なんか、怖かった。

蚊が死ぬ空気って、どうよ?

人間にだって害あるっちゃろ?

 

調べてみた。

選択毒性、というものらしい。

蚊には効くけど、人間には効かないそうで。

正確には「効きにくい」だろうけど。

なんか、植物に含まれる毒物だということで、意味不明な安心感。

んで、原始的に戻って蚊取り線香にしてみた。

 

結果から言うと、火のつけ方を間違えていた。

香取線香ってね、2個が一段になって売ってあるのね。

螺旋構造がいい具合に2個平面的に重なってる。

それ、ほぐしてから使う。

知らずに2個いっぺんに使って寝てた。

 

そういえば、なんかやたら煙てえなって。

後になってみれば、ですね。

まさかの加速

握撃が底を突くまで壁を登って。

すっかり日が暮れてしまった帰り道。

ガタガタの身体に鞭打って、かろうじて走っているというギリギリ競歩より上のライン。

いつもは通らない交差点。

横断歩道をジョギングで渡っていく。

左後方から右折車。

ランクルだろうか?

軽快な大型の4WD。

普段はそんなに気にしないけど、妙に気になって視線を前に戻せない。

あと1/4で渡りきる。

そのくらいで、右折車が曲がりながらまさかの加速。

 

やべえ、轢かれる。

 

動かない足でスパートをかけて間一髪。

たぶん、通りなれた人が運転してる。

まさか歩行者がいると思っていない。

田舎あるある。

思い込み、だね。

僕もそう。

右折車が自分のことを認識してくれてると思い込んでる。

 

先入観、危険ですね。