砂の男

もう6時か、早いな・・・。

ハードワーカーの先輩がぼやく。

まったくだ。

今日も来た球を打ち返すだけで日中が終わってしまった。

見逃し三振をしたくない。

そんな心情が、「重要だけど緊急性が低い仕事」に取り掛かるのを遅らせる。

明日こそ。

そうやって迎えた翌日も来た球を打ち返すだけで終わってしまう。

 

砂の女、という小説がある。

阿部公房さんの作品。

これがすごいんだ。

昆虫採集のため、遠くへ来た男。

アリ地獄のような砂の底にある家に泊まる。

翌朝には地上への梯子が外されていて、ひたすら毎日砂に埋まらないように、砂を掻き出す日々を過ごす。

絶対いやだ、外にでたい。

けれど、こうやって毎日オフィスでPC画面に向かって来た玉を打ち返す日々と、どれだけの差があるというのだろう?

僕たちは、自分で気づいていないだけで、実は皆砂の中にいてもがいているだけなのだ。