目の前にいるお客さん

5日後に迫ってきた。

荷造りも8割ほど終わり、自宅からどんどん「くつろぐ」という機能が失われていく。

 

さて、サヨナラするのは自宅だけではない。

近隣の公園だったり、飲食店だったり。

ハッとした。

そうだ、食べ納めだ。

行こう、近所の中華屋に。

 

はて、営業時間は何時から?

ネットで調べると、最近メディアに出て忙しいやら、なんやら・・・。

うーん、どっちかというと、やな情報。

以前より混んでるかもしれない。

 

夕方。

開店早々に行くと、さすがにまだ客は誰もいなかった。

でも、注文取り終わってから、続々。

テレビで観て、〇〇から来たんですけど・・・

うほっ、そんなとこから!?って場所からきてる。

やっぱ、テレビのインパクトはデカい。

 

食べ終わった頃にはバタバタしてて、コロナの影響もあって検温やらなんやら、店側も手数が増えて大変そう。

しばらく待って、頃合いを見て席を立つ。

タイミングの悪いことに、ここで電話が鳴る。

「いいですよ、電話でてください」

気を使って言うが、頑なに受話器を取らない。

その姿に、僕は少し感動すら覚えた。

優先順位が、ブレていない。

 

その時、僕の頭をよぎったのは、飲食店の修行時代。

オーナーの口癖は「臨機応変」「お前らはダメだ」「商売人になれ」・・・などなど。

突き詰めると、それは「目の前の売り上げを絶対に逃すな!」であった。

ただ、身体は一つ。

目の前のお客をとれば、電話は捨てなきゃいけない。

目の前のお客に「少し待って」とお願いしたところで、待ってもらえる時間は知れてる。

他の現場事も詰まってくる。

そして、よく怒られた。

何をやっても、何かがうまく行かなかった。

でも、それは当たり前なのだ。

凡人にとって。

 

なんか納得いかなかったのは、後出しジャンケンで怒られてたからだと思う。

そして、「売り上げ第一」という主義には必ず大きな矛盾が生じる。

優先順位第一位がいくつもある。

それは、もはや優先順位ではないのだ。

 

よく切らないなぁと思うほど電話が鳴って、ようやく手の空いたバイトの子が受話器を取った。

このお店の優先順位。

それはきっと、「目の前にいるお客さん」なのだと思う。